大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成12年(く)141号 決定 2000年11月08日

少年 D・J(昭和60.7.29生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用するが、論旨は、要するに、少年はガソリンタンクに砂糖を入れたり、恐喝をしていないのに、これらの事実を認めたと思われる原決定には、決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認があり、また、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当である、と主張するものと解される。

二  事実誤認の主張について

そこで、記録を調査して検討するに、少年は、ぐ犯の行為の一つとして、通学していた中学校内で、金銭の強要をしていたとして、佐賀家庭裁判所に送致されたが、原決定は、「罪となるべき事実」第1のぐ犯の事実から、金銭の強要を除外していることが認められる。また、少年が、Aの自動車のことと思われるが、そのガソリンタンクに砂糖を入れたとの事実は、処分の理由となった「罪となるべき事実」には含まれておらず、結局、少年の主張する二つの事実は処分の理由になっていないから、所論は前提を欠き採用できない。

三  初等少年院送致の保護処分が重すぎるとの主張について

そこで、記録を調査して検討するに、本件は、少年が、怠学、夜遊びを繰り返して、保護者の正当な監督に服さず、また、通学する中学校では、授業妨害、教師に対する暴言、暴行などをしたというぐ犯行為をし(罪となるべき事実第1)、少年である共犯者と共謀のうえ、2回にわたってオートバイを盗み(同第2、第3)、さらに、少年である共犯者と共謀のうえ、友人のネックレス1本(時価17万円相当)を盗んだ(同第4)という非行である。

本件非行の動機・態様、少年の年齢、非行歴、生活状況、交友関係、性格・資質、保護環境等を検討すると、とりわけ、

1  少年は、平成12年2月、罪となるべき事実第1のぐ犯で観護措置となり、同年3月、家庭裁判所調査官による試験観察に付されたこと、その審判の過程で、少年は、今後の生活態度の目標として、<1>夜遊びはしない、<2>万引やバイクを盗んだり等の悪いことはしない、<3>授業内容が分かるように、姉の助力を得て勉強をしっかりがんばることを掲げ、これらを守ることを約束し、その際、今後同じようなことを繰り返せば、施設に収容されることになる場合もある旨の注意を受けたこと、

2  その後、少年が平成11年8月に行った各オートバイ盗の非行(罪となるべき事実第2、第3)が、原裁判所に追送致されたこと、

3  特に、罪となるべき事実第4の窃盗は、試験観察中であるにもかかわらず、行ったものであること、

4  窃盗の動機をみると、友人と乗り回すためのバイクが欲しかった(同第2、第3)、あるいは、共犯者からそそのかされて盗んだ(同第4)などというもので、特に酌むべき事情は認められないこと、

5  同第4の窃盗は、年上の少年から、そそのかされたものであるものの、そもそも、無断外泊や夜遊びをしていなければ、そのような非行にいたらなかったもので、その点を重視するのは適当ではないこと、

6  少年は、試験観察後、平成12年5月ころまでは、中学校に通い、学校でも問題行動が殆どなかったが、同年6月ころから、学校に行かないようになり、罪となるべき事実第4の共犯少年らと夜遊びなどをするようになり、同第4の非行に及んだこと、

7  少年の両親は、少年の監護に努力してきたが、少年はその指導に従わず、罪となるべき事実第1の事実で観護措置となり、その後の少年の立ち直りを期待して試験観察に付して経過を見てきたが、同年6月ころからは、再度両親等の指導監督に従わず、夜遊びや無断外泊をして同第4の非行に至ったもので、在宅の処遇では少年に対する十分な教育効果が期待できないこと、

などが認められる。

以上の諸事情によれば、少年にはこれまで保護処分歴がないこと、罪となるべき事実第4の窃盗については、少年の方から積極的に関与した犯行とはいえないこと、少年が本件非行に対する反省を深めていることを考慮しても、この際は、少年を施設に収容して、短期間でも集中的に矯正教育を施し、基礎学力を付けさせるとともに、健全な生活習慣や法律を守る意識を育てて、その非行性を除去することが、少年の更生のために必要かつ相当であると認められる。そうすると、一般短期の処遇勧告を付したうえ、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は相当である。

四  なお、職権をもって調査するに、原決定はその決定書の理由において、3件の犯罪事実のほかに、罪となるべき事実第1でぐ犯事実も認定挙示しているが、ぐ犯事実を「罪となるべき事実」の標題のもとで摘示することの当否はさておき、そのぐ犯事実は「怠学、夜遊びを繰り返し、保護者の正当な監督に服さず、通学する中学校内では、授業妨害、教師に対する暴言、暴行などの行為をしており、その性格と環境からみて、ぐ犯性が保護のため緊急を要する状態にあった」と記載されているに過ぎない。ところで、ぐ犯少年に対する保護処分の決定の場合にも、明文の規定はないが、少年審判規則36条の規定の類推適用を認めるべきであり、したがって、その決定書においては判決書における罪となるべき事実の記載ほどそのぐ犯事実を厳格に特定して記載することは要求されないとしても、少なくともぐ犯事実が行われたおおよその時期及び少年法3条1項3号に掲げる事由のいずれかに該当することを推知しうる程度に具体的に記載することを要するものというべきである。しかるに、原決定で挙示された事実は前記のとおりであって、特に、ぐ犯の時期について始期及び終期の記載がなく、原決定全体をみると、ぐ犯事実の終期は1回目の観護措置がとられた平成12年2月23日とも解されるが、少年が、同年3月17日に試験観察に付された後にも、「罪となるべき事実」第1のぐ犯事実に記載されている事実の一部が認められることからすると、これだけではぐ犯事由についての具体的表示に欠けるところがあり、法令に違反しているものといわざるを得ない。ただ、本件においては、前記のとおり、右ぐ犯事実を除いて前記犯罪事実のみを非行事実と見ても、少年の要保護性が高いことと相俟って、少年は初等少年院送致を免れないのであるから、右法令違反は、決定には影響を及ぼさない。

五  よって、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 清田賢 裁判官  坂主勉 鈴木浩美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例